鉄剤の副作用と危険性

本記事は神戸ナカムラクリニック中村篤史院長から許諾いただき、「院長ブログ」に掲載された「鉄剤の危険性」を再編集したものです。

鉄剤の重要性と危険性とは

鉄剤の重要性をネットで発信している先生がいます。藤川徳美先生です。

藤川先生の『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』(光文社新書)という著作を読みました。総じてすばらしい本でした。若年女性の精神疾患の背景に鉄欠乏性貧血があることが多いという指摘は、もっと多くの医者が知るべき事実だと思います。ただ、気になる記述もあります。それは、「血清フェリチン値は100を目指すべきだ」と書いてあることです。なぜなら、血清フェリチン値は30もあれば充分だから、これはいくらなんでも高すぎます。鉄欠乏性貧血の人が鉄剤の摂取を開始し、血清フェリチン値を30まで上昇させることができれば鉄剤の摂取を中止すべきだと考えています。内容が極端すぎるので、この本の内容を素直に信じてしまうと鉄を摂取する必要のない人まで、「健康維持のために鉄を摂ろうかな」と思ってしまうかもしれません。

サプリメントで摂取を控えるべき栄養素

トーマス・E・レビー先生は、それ以上の鉄剤投与が活性酸素を増やし、かえって健康を損ねると主張しています。以下、同氏の”Hidden Epidemic”を参考にした記述です。

摂ってはいけないサプリメントというものが三つあります。

それは、

  • カルシウム

です。
これらは生命にとって必須のミネラルですが、必要最低量とそれ以上摂取すると過剰症の危険があるまでの量域が非常に狭いので慎重に扱うべきなのです。

カルシウムは骨粗鬆症の予防どころか、むしろ骨折の原因だということが免疫学上で証明されています。体内のカルシウムの99%は骨に蓄えられており、必要に応じて骨からカルシウムが供給されます。だから、わざわざカルシウムをサプリメントで摂取するなどナンセンスです。骨粗鬆症の治療のおいて摂るべきサプリメントはカルシウムではなくビタミンDです。

カルシウムが増え細胞内のカルシウム濃度が高まると酸化ストレスになります。これは慢性変性疾患を促進することにつながり、さらに動脈内壁にカルシウムが沈着すれば動脈硬化の原因にもなります。カルシウムの摂取量は心筋梗塞の発症率のみならず、癌発症率の増大とも関連があり、全体的死亡率とも正の相関関係があることが知られています。動脈硬化については、カルシウムチャネルをブロックするマグネシウムを摂るべきです。ミネラルの中で唯一マグネシウムだけは、過剰症をそれほど気にする必要はありません。むしろ、マグネシウムの摂取量と全体的死亡率との間には負の相関関係さえあります。

カルシウムについてはこちらの記事もご参考にしてください。

摂るべきマグネシウム、摂らざるべきカルシウムと鉄

2018.10.13

鉄剤の過剰摂取の危険性

鉄には、二価と三価という二通りの存在形態があります。鉄はヘモグロビンや各種酵素、たんぱく質の形成に必要ですが、一方で、二価の鉄イオンは過酸化物の存在下で、人類に知られた物質の中で最も強力な酸化力を持つ活性酸素の一つ”ヒドロキシラジカル”を生成します。これがフェントン反応です。鉄欠乏性貧血でもない人が鉄の摂取をつづけると体内の鉄は増えつづけ多くのフェントン反応を起こすことになります。当然、細胞内の酸化ストレスが増大しますので、それが副作用として癌をはじめとした慢性疾患の原因となります。ほぼ全ての癌細胞は細胞内に鉄をため込んでいます。逆に、鉄キレートを用いて体内から鉄を除去すると、癌細胞は増殖を停止しアポトーシス(細胞死)が起きます。

鉄が病原微生物の増殖に寄与することも知られています。鉄の摂取量が多いほど、ヘリコバクターピロリを含む腸内の病原微生物の量も多くなります。数百万人ものアメリカ人が”鉄過剰摂症”に苦しんでいる原因は、ほとんど全ての加工食に鉄が添加されているからです。体には鉄の排出機能がないため過剰摂取された鉄は体内に蓄積されていくのです。

1941年にアメリカで食品への鉄の添加が始まりました。アメリカのセリアック病患者(グルテン過敏症)は当時よりも4倍に激増しましたが、この背景には鉄による腸の炎症があると思われます。この炎症が、グルテンが未消化のまま腸壁を通過してしまい抗原抗体反応および自己免疫疾患を起こすとされるリーキーガット症候群の原因となっているのです。

また、鉄剤には、本来なら廃棄されるような鉄鋼業のグラインドで生じた鉄が原材料として利用されています。これは、食品への鉄の添加や鉄サプリメントといった市場が生まれたために商用利用されたものです。鉄剤を飲み始めた人が、胃腸の不快感を訴えるケースが多いのは必然なのです。

鉄によるこれらの症状は全て、必要としないものを摂取したことによる体の正常な拒否反応なのです。血液検査に問題がなく、かつ、血清フェリチン値が100 ng/cc以上の人は、瀉血、献血、イノシトール6リン酸などの鉄キレートの摂取、遠赤外線サウナなどで、血清フェリチン値を50 ng/cc以下まで下げるように努めるべきです。

編集者の見解
中村先生は、Facebookで藤川先生をフォローしています。だから、オーソモレキュラー栄養療法を実践されて素晴らしい成果をあげていることも知っています。藤川先生は投稿の影響力も強いインフルエンサーだからこそ、間違ったことは言ってほしくないと思います。たとえば、先生は「NOW社B50」をお勧めされていますが、あれは葉酸がFolate(葉酸塩)ではなくFolic Acidだから発ガン性があり、ビタミンB12欠乏の原因になります。さらに、ビタミンB6がピリドキシン塩酸塩であって、ピリドキサールP5Pではないのも残念です。

ただ、ホッファーでさえ「葉酸は、合成が天然より吸収力があり体に良い」なんてことを言っているくらいですから、藤川先生がこうした誤解をされるのも仕方ないことです。でも、時代は移り変わり、多くの発見があり、知識も増えていきます。ホッファーはこの本を出した翌年には亡くなられましたが、オーソモレキュラー栄養療法は日々進歩しています。現役の医師は新しい知識に適応していかなくてはなりません。私は、医師は常に患者さんのベストを考えないといけないと考えています。藤川先生には「血清フェリチン値100は患者にとって本当にベストなのか」をご再考願いたいと思っています。

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ABOUTこの記事をかいた人

續池均

セブンシーズ・アンド・パートナーズ株式会社代表取締役  大学卒業後、食品メーカーに7年勤務し、ITベンチャー企業へ転職。2005年12月に事業管掌役員として東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たす。その後、独立起業し現在に至る。 四児の父として育児に奔走しつつ、自らの體の再生に光を当ててくれた整体に興味を抱き2016年に「ミオンパシーサロンUROOM」を開業。5年の整体院経営で培った理論と実践からMTR Method™️を開発。「筋肉チューニング整体院UROOM」へ昇華改名し、オーソモレキュラー栄養療法に基づく栄養ストラテジーを実践する健康食品ブランド「医食同源Lab」の開発など人體研究者として邁進している。