ここ数年で起立性調節障害という言葉を耳にすることが増えてきました。不登校になる子どもが急増している背景にも起立性調節障害が大きく関わっているように感じます。
「栄養」という視点で起立性調節障害を見ていくと成長期に必要な栄養素が不足しいていること、それらが様々な要因でで上手く機能していないことが考えられます。
起立性調節障害を治すというより子どもの体を整える・元に戻すという視点でご覧ください。
起立性調節障害とは?
特に小学校高学年から高校生の成長期の子どもたち、思春期に多い「病気」とされています。
主な症状は、朝起きられない、夜眠れない、頭痛・腹痛・吐き気、立ちくらみ・失神、食欲不振、集中力が続かない、動悸や息切れがする、イライラするなど。原因として、自立神経の乱れ、ストレス、生活習慣の乱れ、水分・塩分不足、遺伝的要素があると言われています。
継続的に症状が続くと病院へ行って症状にあわせた薬を処方されたり、起き上がりの工夫、水分・塩分の摂取・ストレスを避ける・運動で筋力低下の予防など生活面での指導で様子を見ることが一般的です。
日によって体調が変化するため始めのうちは一時的な症状と捉えてしまいますが、予兆を見逃さずお子さんの体を根底から整えていくことが大切です。
心身を整えるための土台
自律神経のバランスと消化吸収
心身を整えていくには、ピラミッドの図でもわかるように自律神経と消化吸収が整っていることが土台となります。
自律神経とは
自分の意識ではコントロールできない神経
体の機能(内臓を動かす、血液を流す、栄養を吸収する、老廃物を回収する)は自律神経が司っています。
交感神経(活動モード)と副交感神経(休息モード)の二つの神経のバランスによって毎日の健康状態が保たれていることが大切です。
学校へ行けなくなっているお子さんは、身動きを止めている状態で交感神経がアクセル全開の状態です。心の焦りや不安で興奮モードになっています。学校に行きたくても行けないのは気持ちの問題ではなく自律神経によって体が正しく反応しているんだなと理解してあげましょう。
人には概日リズムという体内時計があることをご存知ですか?
地球の1日の周期が24時間なのに対して体内時計のリズムは25時間です。
そのためこの時差をリセットする必要があり、これを整える働きが自律神経にあるのです。
そして、1日に1 時間しかリセットできません。何日も不規則な生活をしているとリセットにも時間がかかります。
寝る直前まで暗い部屋でスマホの画面を見たりしていませんか?子どもの昼夜逆転の原因はここにあります。赤ちゃん時代からスマホの画面を長時間見続けることは光刺激により視覚が過剰に反応しやすくなり脳機能にも良い影響はありません。
これは子どもだけでなく大人にも同じことが言えます。
スムーズな消化吸収が体を整える
リラックスして食事をとる、よく噛んで食べることを心がけていますか?
食事中はリラックスして副交感神経が優位で腸の蠕動運動が活発になり消化しやすい状態であることが好ましいです。食事中のスマホ、テレビからネガティブな気持ちになる暗いニュースが流れてくる、小言を言われる。こんな状況は交感神経が優位になり胃腸の働きを抑制してしまい消化が悪くなります。
ご飯を味わって食べることは五感を使うので知覚も養えますし、モグモグとよく噛んで食べることはリズム運動になるので副交感神経を優位にさせ消化を助けます。
栄養を取り入れる前には、自律神経や消化機能など体本来の仕組みをうまく働かせることが大切だとご理解いただけましたか?
冒頭に起立性調節障害は成長期に必要な栄養素が不足していると記述しましたが、好きなものをお腹いっぱい食べればいいというわけではありません。
ここからは成長期の体や必要な栄養素をご説明していきます。
成長期の体と栄養の関係
◉たんぱく質
◉マグネシウム
◉鉄分
◉亜鉛
==たんぱく質==
小学校高学年から中学生にかけてグンと身長が伸びる成長期には大人以上に栄養が必要です。 身長が伸びるということは骨の成長が著しく栄養需要が非常に高い時です。 そこで重要となるのが体の全ての土台となるタンパク質です。 タンパク質は皮膚・髪・骨・筋肉・内臓・血液・ホルモン・神経伝達物質など心と体すべての材料です。
細胞内ではタンパク質・ビタミンやミネラルが働いて体が動くためのエネルギー代謝に使われています。
目には見えない神経伝達にも使われるためタンパク質不足が精神的な不調を招いていることもあります。
成長期には一日あたり自身の体重1gあたり×2(例:50kgの場合50g×2=100g)のタンパク質が必要ですがスポーツをしている子はさらに多くのタンパク質の需要があります。
肉・魚・卵・大豆をメインに摂っていきますが、それぞれの食材に含まれるタンパク質以外のビタミンやミネラルも必要なので一つの食材に偏らずに摂ることも大事なポイントになります。
==マグネシウム==
マグネシウムは体を動かすためのエネルギーを作り出すうえで非常に重要なミネラルですが 現代人はほとんどの人 が不足しています。 マグネシウムが不足すると、疲れる・イライラ・不安・足がつる 熟睡できない・肩こりや腰痛 貧血・頭痛・生理痛・血圧が不安定などの症状が現れます。
◉添加物(カップ麺や冷凍食品やレトルト食品)
◉精製品の使用(砂糖・塩・小麦粉)
◉甘いお菓子やパンを常食している
◉カフェインの摂りすぎ
◉薬の常服
◉ストレス過多
◉土壌のミネラル不足
添加物は食品の質を安定させたり、味を美味しくするために使われていますが、これらが体内に入ってくると体は毒とみなし体外に排出させます。特に白砂糖の摂りすぎは、糖質を代謝させるために多くのマグネシウムが消費されます。食事中にカフェインを含む飲み物は避けて食後に飲むなどの工夫も必要です。エナジードリンクは糖分もカフェインも大量に含まれているので避けたい飲み物です。
薬については急になくすことができないと思いますが、マグネシウムを増やしていくことで症状が緩和される可能性もあります。
マグネシウムはセロトニン、メラトニンなどの心を安定させたり睡眠の質に関わるホルモン合成にもなくてはならない存在です。ストレスを過剰に受けると排出されやすいのでストレスを減らす工夫も必要です。現代の日本の土壌は昔とは違って化学肥料や農薬の影響でミネラルが減少しています。そのため野菜をたくさん食べていても栄養不足を招いています。無農薬野菜で野菜本来の味を感じてみてください。少量でもお腹が満たされますよ。
低血圧で薬を処方されたり、塩分を摂るなど指導があるようですが、マグネシウムは血管や筋肉の弛緩・血圧を安定させる作用があります。塩分に関しては天然塩やにがりをお勧めします。
塩分が欲しい時は無添加の味噌で作った具沢山の味噌汁が万能です。間違ってもカップ麺の汁を飲み干すのは避けましょう。
==鉄分==
鉄分と言えば血液。 血液は栄養・酸素を運ぶ、毒素を排出させ、免疫力を高めたり、細胞内のエネルギー産生やメンタルを安定させる働きがあります。鉄はメンタルに関わるホルモンの ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンの合成に必要で不足すると精神的に不安定になり、自立神経にも乱れが生じます。
◉たんぱく質不足
◉成長期で需要が高い
◉生理がある
◉偏食・小食
◉ダイエットをしている
◉精製糖質の過剰摂取
◉加工品をよく食べる
◉カフェインの過剰摂取
生理のある女子は貧血傾向にあり、お母さんが貧血の場合は男子でも鉄分が不足しいている可能性があります。ある調査では日本の子どもで一番不足しているのは鉄分という報告があり、起立性調節障害が増えている背景のひとつかもしれません。
カフェインは鉄の吸収を妨げますので、食事中は水やノンカフェインのものが好ましいです。
甘い物を頻繁に食べていると糖質の代謝で鉄が消費されます。エネルギー不足が起きている時、脳は手っ取り早くエネルギーが摂れるため甘い物への欲求が強くなります。たんぱく質や脂質、ビタミンB群・マグネシウムは動くためのエネルギーの材料なので増やしていくと自然に甘いものへの欲求が減ってきます。
鉄のサプリメントは胃腸の状態によっては悪玉菌を増やしたり消化吸収に問題が出てきますので鉄分は食事から摂ることが望ましいです。特に赤身肉、レバー、カツオに多く含まれます。またビタミンCは鉄の吸収を助けるので野菜やフルーツでバランスよく食べていきましょう。また、マグネシウムは体内で鉄に変換される働きもあるので積極的にとっていきましょう。
==亜鉛==
亜鉛は微量ミネラルですが体内で作ることが出来ないため食事からしっかり摂っていきましょう。体内では300以上の酵素反応を活性化し、ホルモンの合成・分泌、DNA合成、タンパク質合成、味覚を正常にする、抗酸化作用、免疫向上、子どもの発育・成長(細胞分裂)、皮膚や髪(傷の修復)、生殖能力、メンタルの安定など 体内での需要が非常に多いので意識して摂りたいミネラルです。
◉添加物やアルコールの摂り過ぎ
◉食事から摂る量が少ない
◉消化力が低下している
細胞分裂が盛んな成長期に不足すると低身長や成長痛などが起きやすくなります。タンパク質が働く時は亜鉛が補酵素となるためエネルギー代謝を高めるためにも欠かすことはできません。
また、赤血球が作られる過程にも関わっているので貧血の方は亜鉛も摂っていきましょう。
イライラして怒りっぽくなる、キレやすくなるなど感情的になる時は亜鉛不足があります。亜鉛不足は精神面に大きく影響しており神経異伝達物質であるドーパミンやGABAなどの放出や取り込みを調整しており、うつ症状を和らげたりします。また、妊娠中に不足すると胎児の成長が遅れたり知能の発達に影響があるため成長期の女子は鉄と同様に亜鉛不足には注意が必要です。
亜鉛を含む食材は牡蠣、赤身肉、卵の黄身などです。ヘンプシードナッツやアマランサスは鉄分やマグネシウムも豊富なのでおすすめです。ビタミンCと一緒に摂ると亜鉛の吸収を高めます。
低血糖と副腎疲労
栄養と同時に見ていきたいのが低血糖です。血糖値は体温と同様に一定に保たれている必要があります。
空腹を甘いお菓子やジュースで満たす、菓子パンや麺類で食事を済ますなど糖質過剰になると体内ではこんなことが起こります。
このような血糖値スパイクが起こる原因には朝食の欠食や少食・砂糖の過剰摂取・ストレスによる副腎疲労・空腹の時間が長いなどがあります。朝食にパンやおにぎりだけ、野菜ジュースだけ、フルーツだけ、シリアルだけになっていませんか?手軽に食べられる物は糖質過多なものが多くバランスが偏りがちです。
栄養の需要が高い成長期は一食一食が欠かすことのできないエネルギー源であり朝食は生命活動に欠かせないものです。
低血糖があると副腎疲労も一緒にみていく必要があります。
副腎は生命維持に欠かせないストレスホルモンのコルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンを分泌する器官。これらは血糖を上げる、血圧を上げる、炎症を抑える働きがあります。
就寝時に夜間低血糖が起きると血糖を維持するためコルチゾールが使われます。コルチゾールには日内リズムがあり本来なら明け方から午前中に使われるのが本来の働きですが、日中に強いストレスが続くと副腎が疲弊してコルチゾールが分泌されなくなってしまいます。
酸素不足は全ての不調の原因
体が酸素不足になっていないか確認してみましょう。酸素は生き物が生きていくうえで欠かせないものです。細胞内のミトコンドリアでATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーが作られるためには栄養と酸素が必要です。ATPが作られなくなると人は生きていけません。

◉疲れやすい
◉あくびがよく出る
◉注意力や記憶力の低下
◉頭痛
◉不眠
◉貧血
◉筋肉が硬い(筋拘縮の蓄積)
◉呼吸が浅い
酸素は血液によって運ばれます。そのため血行が促進されることが重要です。
体内を酸欠にさせてしまう原因として硬い筋肉が多い(筋拘縮の蓄積)、運動不足があります。
起立性調節障害のお子さんは運動したくても出来ないというケースが多いと思います。
私たちが行う施術「筋肉チューニング」は硬くなった筋肉を緩めて血行を促進させ酸欠を改善させるために有効な施術です。血流が促されると交感神経優位から副交感神経優位になり心の安定にもつながります。
体が解れてくると外に出て体を動かしたいという意欲も出てくると思います。
無理せずお子さんのペースで筋肉チューニングも取り入れてみることもお勧めします。
栄養と聞くと面倒とか難しいと感じてしまうかもしれません。たまには、みんなで楽しく食べるジャンクフードもいいですし、スイーツで心から幸せを感じることも大切ですが、体の仕組みや栄養がもたらす可能性を知っていると自分に必要なものが選べるようになります。
これを読んでいただいている方にはお子さんが起立性調節障害や不登校で悩んでいる方がいらっしゃると思います。特にお母さんは「自分がなんとかしなければ」「私のせいで」という自分責めの思考にならないこともお子さんが改善していくうえで大事なことです。そして体や食べ物のことを知るとお母さんご自身の心も体も整っていきます。
そして、お母さんが笑顔でいることがお子さんの安心につながります。