脱毛症に効く栄養療法
毛髪は若さの象徴ですね。
色艶の良い髪の毛がたくさんあれば、とても健康的で若々しく見えることでしょう。これは男性女性を問わず言えることでしょうが、「髪は女の命」という言葉もあるくらいですから、総じて男性よりも髪が長い女性について言えることかもしれません。
若ハゲは少し辛いかもしれませんが、男性は禿げてもそこまで致命傷にはなりません。髪の毛以外に他にいくらでも勝負所はありますし、たとえ禿げていても魅力的な男性はいくらでもいます。それどころか、ブルース・ウィリスのように禿げているがゆえにより一層魅力を高めている俳優さえいます。
しかし、女性で毛髪が薄くなるというのは本当に辛いと思います。丸坊主で勝負できるのは、当時話題となった『西遊記』で三蔵法師を演じた夏目雅子さんくらいしか浮かびません。一般の女性、特に若い方で髪が薄くなってしまったら人生に絶望を感じても不思議ではありませんね。
中村先生の率直な気持ち。「治してあげたい。」
まだ確立されていない脱毛症の治療法
女性が綺麗であろうとする思いに応えることができたなら、これほど嬉しいことはありません。しかし、簡単に「こうすれば治ります」とズバリ答えるのは、残念ながら難しいです。女性の脱毛症についての機序はいくつかあるのですが、まだ未解明の部分も多いですし、治療法に至ってはまったく確立されていません。
たとえば、男性が前方から薄くなりM字の形に禿げるケースはよく見かけますが、女性でこういう禿げかたをする人はかなり珍しいと言えます。残念ながら未だ理由はわかりません。おそらく女性ホルモンが関与しているくらいのことしか言えないのです。
ただ、いくつか示唆的な研究は存在します。
Serum Ferritin and Vitamin D in Female Hair Loss: Do They Play a Role?
脱毛症の女性(慢性休止期脱毛と女性型脱毛)は発症していない女性に比べて、血中フェリチン濃度やビタミンD濃度が有意に低く、かつ、これらの血中濃度は薄毛の重症度と相関していたという論文です。これはかなり有益な情報でしょう。これは、鉄剤とビタミンDのサプリメントを摂取して、フェリチンとビタミンDの血中濃度を上げさえすれば毛が生えてくるのかと問われれば断言はできません。しかし一度は試してみる価値はあると思います。
サプリメントが苦手な人は、魚や肉を多めに食べるようにして、適度に日光に当たると良いと思います。「漁師に薄毛なし」という俗説があります。おそらく漁師は魚をよく食べるのでしょう。魚に含まれるオメガ3系不飽和脂肪酸(EPA/DHAなど)が血流を促進すれば頭皮にはプラスでしょうし、肉に含まれる鉄分でフェリチンを補うこともできます。ビタミンDは日光が皮膚に当たることで生合成されます。(高齢になるとビタミンDの生合成能力が衰えてきますので、やはりサプリメントがお勧めになります。)
糖質過多が脱毛症に与える影響
さらに別の研究があります。
Hair Loss, Insulin Resistance, and Heredity in Middle-aged Women.
http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1097/01.hjr.0000070200.72977.c6
AGA(アンドロゲン型脱毛)は男性に多いですが女性にも見られます。AGAになる女性では、多嚢胞性卵巣(PCOS)やインスリン抵抗性が見られることが多いです。逆に、インスリン抵抗性のある女性は、AGAになるリスクが高くなるそうです。
インスリン抵抗性が脱毛症に関与しているとすれば、第一に行うべき対策は糖質制限になるでしょう。同時に適度な運動なども始めてインスリンの感受性を高めてみる。若い人なら代謝回転も早いのですぐに効果を実感できると思います。
これはもっと危険です。アスパルテームはむしろインスリン抵抗性を惹起して糖尿病になる恐れがあるため、くれぐれもご注意ください。
スピロノラクトンという利尿薬があります。ほとんどの利尿薬は長く使えば低カリウム血症を起こしてしまいます。スピロノラクトンはカリウム保持性利尿薬と言われているので、低カリウム血症を起こしません。これは医大のテストでも習うから、この薬を知らない医師はいないはずです。でも、スピロノラクトンに脱毛予防作用があるというのを知っている医師は少ないと思います。
Innovative Use of Spironolactone as an Antiandrogen in the Treatment of Female Pattern Hair Loss
https://www.derm.theclinics.com/article/S0733-8635(10)00052-5/abstract
男性ホルモンの働きを抑えることで、抜け毛やニキビまで抑えてくれるようです。中村先生は、こういう薬はあまり使いたくないそうです。なぜなら、ミノキシジルにも一応の効果はあるかもしれなが、それと同時に副作用もあるからです。
やはり、最初に考えるべきは、食事を含めた生活習慣の改善であり、その次にサプリメントの摂取でしょう。それでも効果がなければ、最後にこのような薬に賭けるという順番が良いと思います。
「ある60代の女性。10年前に乳癌の既往歴あり。手術および抗癌剤治療を行い、その後は再発していない」という女性の薄毛の相談にのったことがあります。もう若くはありません。「髪の毛が薄くても今後の人生に大きな影響はない年齢ですよね」と内心は思ったのですが、その女性は再び綺麗な黒髪を取り戻したいそうです。女性のこういう気持ちには、心が動かされます。年齢は関係ないのです。女性である限り、何歳になろうが綺麗でいたいのです。
いつも本気の中村先生も、特にこういうケースでは自分の知識をフル動員して何とか助けてあげたいと思うそうです。