栄養素を過剰に摂取する治療法は危険なのか?
オーソモレキュラー栄養療法とは?
「ビタミンを馬鹿みたいにたくさん飲む治療法でしょ」別名メガビタミン療法と言うくらいですから、間違ってはいませんがポジティブな表現ではないですよね。
厚生労働省はビタミンの摂取量について一応の基準を設けています。ただ、その基準値は「その量を下回るとビタミン欠乏性の病気になってしまう」くらいのぎりぎりの線になっています。脚気にならないための最低限のチアミン(ビタミンB1)摂取量や、ペラグラにならないための最低限のナイアシン(ビタミンB3)摂取量が基準値として設定されています。
一方、オーソモレキュラー栄養療法は発想が全く逆であり、「ビタミンの大量摂取によって病気を治してしまう」というのがこの治療法の本質なのです。ですから、場合によっては、厚生労働省の推奨基準値よりも2桁も多い量のサプリメントを摂取することはよくあります。ビタミンの乏しい現代の食事が原因で病気になっている患者さんの体は、そのなけなしのビタミンで何とかやりくりしようと頑張っているものの、すでに症状という形でSOSの警鐘を鳴らしているのです。そういう患者さんの診療を通して、体が必要としているビタミンを見抜き、そのビタミンを大量摂取してもらうとどうなると思いますか。驚くほど調子が良くなります。その回復ぶりに患者さん自身も驚かれるし、医師としてそういう回復を見慣れている中村先生にとっても、患者さんの回復に接するたびにいつも新鮮な気持ちがするそうです。
ビタミンの大量摂取は有効なのか?
「水溶性ビタミンの場合、過剰摂取しても大部分は尿中排出されてしまうので、そんなに大量に投与することに果たして意味があるのか?治療として意味をなさないのではないか」
なるほど、筋の通った反論ですね。確かにそうかもしれません。しかし、こういう反論をする医師たちは、自分たちが患者さんに投与する抗生剤について同じことは絶対に言いません。抗生剤の投与量に比例して尿中の抗生剤排出量も多くなりますが、だからといって抗生剤は無意味だとは考えないでしょう。全く筋の通らない思考回路だと思います。
もはや、論より証拠です。オーソモレキュラー栄養療法を実際に試してみればいいのです。医師の使命は患者さんの病気を治すことです。いかにアウトプットを出すか。アウトプットにこだわれるかだと思います。一般の処方薬で全く改善しなかった症状が、サプリメントで見事に回復する症例を目の前で体験すれば、自分がこれまでやってたき現代医療が馬鹿馬鹿しくなってくるはずです。
患者さんから「サプリメントの過剰症は大丈夫なのか。脂溶性ビタミンはもちろん、水溶性ビタミンでも不必要に多い量を長期に摂取することで、何らかの弊害が起こるのではないか」と聞かれたら、中村先生は基本的には「心配いりません」と答えるようにしているそうです。
過剰摂取してはいけないビタミン「ビタミンA」
唯一、メガドースすべきではない脂溶性ビタミンは、ビタミンAだけだと思っています。
ビタミンKは摂取上限を決めようにも決められないくらい安全性は高いです。ビタミンDも30,000IUくらいまでは全く心配いらないし、ビタミンEもホッファー先生は症例によっては5,000IUとかを普通に使っていました。水溶性ビタミンは、もちろん心配いりません。それが原因で何かしらのひどい副作用が起きるということはまずあり得ないのです。
メガドース時の注意点
ただ、ここからは患者さんにあえて説明しないところなのですが、まったく副作用がないかというと、そういうことでもないと思っています。これは中村先生ご自身の話なのですが、オーソモレキュラー栄養療法のすばらしさを知ってからビタミンの摂取を開始したさそうです。別にオーバードースというわけでもなくて、マルチビタミンを1日3錠程度です。確かに体調が良くなったと感じていました。
でもあるとき、おでこにニキビができ始めたそうです。ニキビなど思春期以来できたことがなかったので、これは明らかにビタミンの大量摂取を始めた影響だと思い、いろいろと文献を調べたそうです。すると予想通り、
ピリドキシン(ビタミンB6)、B12、ビオチンあたりを過剰摂取すると、人によっては皮膚の常在菌叢が変化して、propionibacterium acnes(いわゆるアクネ菌)が増えるそうです。そこで、マルチビタミン(ビタミンB群)をいったんやめました。すると、ニキビはすっかり治りました。
Acneiform eruption due to “megadose” vitamins B6 and B12.
中村先生は身をもって、ビタミンにも副作用があることを知ったわけです。でも同時に、「あつものに懲りてなますを吹く」ようなこともしませんでした。ビタミンをやめるどころか、違うメーカーのマルチビタミンを使うようにしました。ビタミンB6はピリドキシン塩酸塩ではなくてピリドキサールリン酸(P5 P)を、B12はシアノコバラミンではなくてメチルコバラミンを使っているメーカーのサプリメントを使うようにして、1日1錠だけ摂取するようにしたところ、以後、何の副作用も出ていないそうです。
サプリメントの値段は高くなりましたが、それだけの価値はあるということです。サプリメントも価格に応じた効果があるのでしょう。それで、一度高価なサプリメントの良さを知ってしまうと、患者さんにも良質なサプリメントをお勧めしたくなるのですが、患者さんはあまりいい顔はしてくれません。
中村先生はエイブラハム・ホッファー先生やアンドリュー・ソール氏の本からオーソモレキュラー栄養療法の存在を知ったわけですが、何も彼らの諸説が絶対だとは考えていません。現代の科学では、正直に言うと間違った記述も少なからず存在します。「これはまずい」、と思うところは修正を加えるようにしていますし、アダプトゲン(抗酸化作用のある天然ハーブ)の利用など彼らが全く言及していないサプリメントも使っています。
だからといってホッファー先生やソール氏を尊敬していないかというと、決してそんなことはありません。「守破離」という言葉があります。最初はお師匠の教えを忠実に守るのですが、試行錯誤を重ねつつ、だんだん自分流に昇華させていくのが、進歩ということだと思います。アメリカにはオーソモレキュラー栄養療法を臨床現場で実践している医師がたくさんいます。それぞれの医師が自分なりの「守破離」を経たアレンジをしているので、そういう医師からも学ぶべきものがたくさんあると思っています。
たとえばトーマス・E・レビー先生もその一人です。彼の”Hidden Epidemic”という本は刺激的でした。虫歯、歯周病など、口腔内の病気がいかに全身性の慢性疾患に影響を及ぼしているかについて詳しく書かれた本なのですが、本の中にレビー先生がお勧めするサプリメントとその摂取方法が紹介されおり、とても参考になりました。