うつ病とモノアミン

本記事は神戸ナカムラクリニック中村篤史院長から許諾いただき、「院長ブログ」に掲載された「結核」を再編集したものです。

オーソモレキュラー栄養療法によるうつ病対策

1950年代、結核病棟でイプロニアジドという新薬を投与したところ、末期の結核で半死半生の状態だった患者さんが急に陽気になったり、踊り出したり、という事例が見られたようです。しかし、投薬後も結核は治癒していなかったため、この薬に抗うつ作用があるらしいということになりました。この時から、うつ病を薬で治そうとする研究が始まりました。

そもそも、人はなぜ陽気になるのでしょうか。モノアミン(ドーパミン:快楽ホルモン、セロトニン:幸せホルモン、アドレナリン:怒りホルモン、ノルアドレナリン:不安ホルモン)という神経伝達物質が出るためです。ドーパミンが出ると気持ちいいですし、セロトニンが出ると気持ちが安定します。アドレナリンが出ると気分があがり、ノルアドレナリンが出るとやる気が出ます。

でも、モノアミンが多過ぎても困りますよね。いつも快楽ホルモンが出っぱなしでは、あえて何もする気が起きないでしょう。人生は山あり谷あり。退屈や不愉快こそが、人生のスパイスであり、人を動かす動機にもなっているのです。そこで、人間の体には、過剰になったり古くなったモノアミンを分解するモノアミン酸化酵素(MAO)というのが備わっています。もちろん、モノアミンが少な過ぎても困ります。パーキンソン病やうつ病になってしまうからです。

イプロニアジドを飲んだ結核患者が陽気に踊り出したのはなぜでしょうか。それは、イプロニアジドがMAOの働きを阻害したため、シナプスでのモノアミン濃度が高まったせいではないか、と科学者たちは考えました。

さらに研究が進み、MAOにはMAO・A(アドレナリン、セロトニンに作用)とMAO・B(ドーパミンに作用)の2通りあることが分かりました。イプロニアジドはMAO・A、MAO・Bの両方を阻害します(しかし、肝炎の副作用が強いため、現在は用いられていません。)

ターメリックがうつ病に効く!?

たとえば、ウコンに含有されているクルクミンはMAO・A、MAO・Bの両方を阻害する作用があります。インド人にうつ病がいないと言われているのは、カレーをよく食べるからかもしれません。カレーにはターメリック(ウコン)が含まれていて、そのおかげでセロトニンがたっぷり分泌されるのでしょう。カレーは、食後にすっきりしますよね?あの感覚は、額から汗を流しながら辛いものを食べる爽快感もあるのでしょうが、シナプスの神経伝達物質の濃度が高まる快感という、れっきとした生理的メカニズムもあるのです。

オーソモレキュラー栄養療法の観点でのソフトなうつ病治療として、毎日お昼に本格インドカレー屋さんでターメリックライスにターメリックたっぷりのカレーを食べるというのをお勧めしたいと思います。大手食品メーカーが販売しているルーを使ったカレーは粗悪な油脂がかえって有害だと思いますが、スパイスとハーブから作った本格的なカレーは副作用がないので、下手な抗うつ薬よりもよほど薬だと思います。

パーキンソン病の治療薬に使われるセレギリンはMAO・Bだけを阻害し、南米の原住民が儀式のときに使うアワヤスカはMAO・Aだけを阻害します。身近なところでは、タバコはMAO・A、MAO・Bの両方を阻害します。つまり、シナプスでドーパミンもセロトニンもアドレナリンもすべて濃度が高まるからこそ、気持ちを前向きにしてくれるわけなのです。

ちなみに、タバコにはアセトアルデヒドが添加物として入っていますが、これはニコチンとアセトアルデヒドの相乗作用で、タバコへの依存性を高めるためです。オーソモレキュラー栄養療法で禁煙をサポートする場合ですが、Lシステインには血中アセトアルデヒドの濃度を下げる働きがあるので、タバコをやめたい人にはシステインかNACのサプリを摂取することをお勧めします。

チーズやワインに含まれるチラミンの摂取制限について

ところで、MAO阻害薬を投薬されている人はチラミンを含む食事を食べてはいけません。チラミンというのは、チーズ、ワイン、豆腐などに含まれています。これは、体内で代謝されるとドーパミンになります。MAO阻害薬によって、ただでさえMAOが高まりやすい状態のところで、食事でドーパミンが大量供給されたとしたらどうなるでしょうか。急激に血圧が上がったりして、危険な状態になります。MAO阻害薬とSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の併用でセロトニン症候群が起こるのは、内科医にとっては常識なのです。

チーズは、けっこうハマってしまう食べ物ですよね。ピザとか癖になってやめられないという人は多いようですが、それは上述のようにチーズを食べれば手っ取り早くドーパミンを刺激できるからとうのが一つの理由です。そして、もう一つはチーズにはカゼインというタンパク質が含まれおり、それが分解されるとカソモルフィンっていうアヘン様物質になるからです。カソモルフィンはモルヒネとかヘロインと同じく、オピオイド受容体に作用します。麻薬並みの快感なので癖になるのもわかります。

筆者の見解
筆者は、狩猟採集民の”適正糖質高タンパク質食”と、オーソモレキュラー栄養療法に則った栄養摂取を実践しています。糖質を適正に戻すと間食で何を食べるべきかが鍵になります。チーズやナッツが間食の王道ですが、わたしは一時期チーズにはまっていました。適度に胃が満たされますし、タンパク質と動物性脂肪が手軽に摂取できる優れものと思っていたからです。しかし、今回の中村先生のご指摘で、チーズは1日1個に制限することにしました笑。

腸内細菌叢に作用するイプロニアジド

ところで、冒頭にあげた結核病棟の話ですが、3年ほど前にRobert Whitakerの”Anatomy of an epidemic”という本を初めて読んだとき、イプロニアジドがシナプスの神経伝達物質の濃度に影響する機序以外にも、機序があるのではないかと考えました。つまり、イプロニアジドはイソニアジド(抗結核薬)の誘導体なので、腸内細菌叢に何らかの作用をするのではないかと考えたのです。カレーを食べてうつ病が改善するのも、セロトニンよりは腸内細菌叢の変化が説得力はあるような気もしています。

そこで、中村先生は、腸内細菌叢の権威、辨野義己先生にメールを送ってみたそうです。いただいた返事には、概ね中村先生の予想を肯定するような内容が記されていたようです。結局、食事の内容およびそれに付随する腸内細菌叢がとても大切で、脳内神経伝達物質がどうのこうのというのは枝葉末節な話なのかもしれません。

健康への答えは、昔から何も変わっていません。

「食べ物に気を遣いましょう」

漢方風に言えば、”医食同源”。これが結論なのです。西洋医学は科学を盾に理屈をこねくり回しているようですが、真理はもっとシンプルだと思います。病気は本来、もっと簡単に治るものなのです。

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オーソモレキュラー栄養療法で筋痛症改善を!

神戸ナカムラクリニックの中村篤史院長がUROOM調布成城にてオーソモレキュラー診療(自由診療のカウンセリング)を不定期ではありますが月に1回、10名様限定で実施いたします。筋痛症を根本から改善されたい方、筋肉の質を改善されたい方などはぜひご参加ください。



腰痛改善の鍵は高たんぱく質


筋肉のロックが原因となる腰痛、股関節痛、膝痛、五十肩などの疼痛ですが、発症した方の多くが、”質の栄養失調”に陥っています。
腰痛を改善するための体質改善にとても重要な栄養素、たんぱく質を摂取することで痛みが改善するメカニズムを詳しくご説明いたします。


ABOUTこの記事をかいた人

續池均

セブンシーズ・アンド・パートナーズ株式会社代表取締役  大学卒業後、食品メーカーに7年勤務し、ITベンチャー企業へ転職。2005年12月に事業管掌役員として東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たす。その後、独立起業し現在に至る。 四児の父として育児に奔走しつつ、自らの體の再生に光を当ててくれた整体に興味を抱き2016年に「ミオンパシーサロンUROOM」を開業。5年の整体院経営で培った理論と実践からMTR Method™️を開発。「筋肉チューニング整体院UROOM」へ昇華改名し、オーソモレキュラー栄養療法に基づく栄養ストラテジーを実践する健康食品ブランド「医食同源Lab」の開発など人體研究者として邁進している。