「老い」は誰もが避けて通れない人生の道でもありますが、今日はオーソモレキュラー栄養療法を用いて老化を少しでも遅らせ、元気に歳を重ねる健康長寿の秘訣についてお話ししたいと思います。
老いと過酸化水素(H2O2)の功罪
過酸化水素(H2O2)は小学校の理科の実験でも馴染みがある単語ではないでしょうか。この単語は、大学医学部の生理学の授業で再び登場します。今度は、「活性酸素のひとつ」という文脈で出てきます。たとえば、「体内に侵入した病原菌に対し、マクロファージ(白血球の一つ)がスーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素といった活性酸素を産生して感染症から身を守っている」といった具合です。
まさに過酸化水素は感染症から身を守ってくれるとても頼りになる物質なのです。しかし、前述した通り活性酸素の一つでもあるため、老化や病気を引き起こすありがたくない物質という側面もあるのです。味方になったり敵になったりする複雑な存在です。世の中には、完全な善人もいなければ、完全な悪人もいないというアナロジーのようで、中村先生はこの両義性にとても感慨深いものがあるそうです。
老廃物として生じた過酸化水素は適切に処理されなくてはいけないのですが、実際は、どのように代謝されているのでしょうか。その代謝経路のひとつが、下記の図で示したグルタチオン・アスコルビン酸回路ということになります。
過酸化水素を処理するプロセスの全貌
図を解説します。
まず、過酸化水素(H2O2)はアスコルビン酸(ビタミンC)から電子の供与を受けて、酵素((アスコルビン酸ペルオキシダーゼ)によって分解されて水になります。この過程で生じた酸化アスコルビン酸(モノデヒドロアスコルビン酸(MDA))はモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素(MDAR)とNADHによってアスコルビン酸に再生されます。
MDAの還元がすぐに行われない場合は、デヒドロアスコルビン酸(DHA)を生じます。DHAはグルタチオン(GSH)を消費しながらデヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR)によってアスコルビン酸に還元され、同時に酸化型グルタチオン(GSSG:グルタチオンジスルフィド)を生じます
。
GSSGは、NADPHから電子の供与を受けつつグルタチオン還元酵素(GR)によってグルタチオンに還元されます。
これが、過酸化水素を処理するプロセスの全貌です。
俯瞰するとNADPHの電子がH2O2に流れています。つまり、グルタチオン・アスコルビン酸回路という名前ですが、NADPHの重要性も相当なものと言えます。
NADPHとは、NADHにリン酸基がついたもので、NADHとほぼ同じと考えてください。(NADPHは植物に多く含まれ、NADHはミトコンドリアに多く含まれている、という違いもある。)
NADHとはナイアシン(ビタミンB3)のこと
では、このNADHとは何か。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(Nicotinamide Adenine Dinucleotide)というその名が示す通り、ニコチン酸アミド(ナイアシンアミド)とアデニンとジヌクレオチドが合体したもので、要するに、ナイアシン(ビタミンB3)のことだと思っていただければ良いと思います。
つまり、グルタチオン・アスコルビン酸回路には、グルタチオン、ビタミンC、ナイアシンという、オーソモレキュラー栄養療法において大活躍する役者たちが一堂に会しているということなのです。
健康長寿は生活習慣と深い関係が
ところで、百歳を超えたご老人のことを、英語でセンテナリアン(centenarian)と呼びます。なぜ、彼らは平均寿命をはるかに超えて長く生きることが可能なのでしょうか。彼らの生活習慣、採血データなどを調べることで、健康長寿の秘訣が見えてくるのではないかということで、センテナリアンを対象とした研究はとても多く存在します。
たとえばこんな研究。
本研究は、ポーランドのシレジア地区に住む16人のセンテナリアン(被験者は101歳から105歳の男性1人、女性15人)を対象に、彼らの抗酸化防御のメカニズム(酵素的であるか非酵素的であるかを問わず)を評価し、人間の長寿において抗酸化力が果たす役割を調べることが目的です。この研究の結果、センテナリアンは、健康な若年女性と比べて、赤血球のグルタチオン還元酵素とカタラーゼの活性が有意に高かったようです。また、有意差は出なかったものの血中ビタミンE濃度も高かったとのことです。
上記では触れませんでしたが、カタラーゼも過酸化水素を無毒化する酵素の一つです。グルタチオン還元酵素やカタラーゼの活性が高いということは、抗酸化力が強いということで、センテナリアンの長寿の秘密はこのあたりにあるのではないかというのがこの研究の示唆するところです。
中村先生曰く、「ビタミンC」、「ナイアシン」、「グルタチオン」のサプリメントを摂取することにより、酵素の活性を高めることができるのかどうかは不明だそうです。ただ、オーソモレキュラー栄養療法の大御所のポーリング博士は93歳、ホッファー先生は91歳と、センテナリアンとまではいかずとも、ずいぶんと長生きをされました。しかも、ただの長生きではなく、晩年まで非常に精力的に活動され健康長寿を体現なさっていました。両先生とも自説を実践してサプリメントを摂取していたのは有名な話です。このことを考えると、サプリメントの摂取も無駄ではないと考えていらっしゃいます。