統失は対処療法では治らない!?
中村先生が以前勤めていた精神科病院には、入院患者に”おやつタイム”があったそうなのです。午後3時前になると患者さんたちがぞろぞろラウンジに集まってきてお菓子が配られるのを待っている。患者さんたちは、自分の好みのお菓子で甘味を楽しむそうです。病院には売店があり、そこでもお菓子やジュースが普通に販売されています。買い物もできないほど精神機能が損なわれているような長期入院している患者さんにも、職員がわざわざお菓子を買ってきたりしていました。短期入院で自由に売店に出入りできるような患者さんは当然のように自由にお菓子を買っていました。
中村先生は、この病院にきた時に見たこの光景に愕然とし、さりげなく上司に提言しました。
「何もわざわざ糖質摂取を奨励する必要はないと思うのですが」
「いや、長く入院している患者さんは、食事とお菓子くらいしか楽しみがない人もいるんだよ。楽しみを奪ったら酷じゃないかな」
むしろ逆で、お菓子食べているから入院生活が長くなるのです。考え方が本質的にちがう上司を説得するのは無駄骨でした。新人が何を言っても何十年とつづいている慣習は変わらないだろう。それ以後、何も考えないようにしたそうです。
それでも、真理はあるはずです。
たとえば、統合失調症。
医者:よし、クエチアピンを投与だ!
患者:ドーパミン受容体がブロックされて妄想は消えた。
患者:でも、ドーパミン受容体が刺激されないと喜びを感じないから不愉快だ。
患者:よし、お菓子をドカ食いして、ドーパミンを出すぞ!
患者:また妄想だ!
医者:あれ?まただ。うーん、困ったな。クエチアピンを増量するぞ!
(これが無限ループとなる…)
精神科でおこなわれている”治療”とはこのような感じです。そもそも根本原因にアプローチしていないからいつまでたっても治らないのです。
依存症と糖質の関係
うつ病やアルコール依存症も糖質の影響が大きい。アルコール依存症の治療に力を入れている病院だったので、患者さんの勉強会があります。しかし、そうした場でさえ、本当の原因が語られることはありませんでした。患者さんたちに、アルコールと糖質の共通因子を説き、ナイアシン(ビタミンB3)の有効性を伝えることができたら、どれほどの人たちが救われたのか。
治らない治療をしながら、沈黙を守りました。時には上司と同じような効きもしない処方をすることもありました。院内薬局から目をつけられていることや、同僚の医者たちが面白半分にカルテをチェックしていたことを知っていたからです。
患者さんに悪影響がでない処方を心がけていたけど、周りの視線に耐えられなくなって、”精神科の王道的処方”をすることもありました。「この患者さんは、もう末期で若くもない。薬で抑えるしかない。」と自分に言い聞かせて…
でも、本当はそんなことはないのです。オーソモレキュラー栄養療法に遅いなどということはない。この人だって、救おうと思えば救える。奥さんがいて、お子さんがいて、仕事があって、まだまだ人生を謳歌できる可能性がある。お前がやらないで誰がやる。中村先生は、そんな心の声と自己保身との葛藤で、今にも引き裂かれそうな思いだったようです。
そして、ある時どうしても助けてあげたい患者さんと出会いました。こっそりナイアシンの瓶を手渡しました。ホットフラッシュが起こる可能性があることや摂取方法を簡単に説明しました。数日後、どういう経緯があったのかわかりませんが、ナイアシンを患者さんに渡したことが上司の耳に入ってしまいました。長時間に渡り、それもかなり感情的に叱責されました。中村先生が、ナイアシンという毒でも薬でもない、何か得体の知れないものを患者さんに渡した行為が、普通の医者にとってはあまりに常識外で感情が揺さぶられるほどの怒りがわいたのでしょう。
「出過ぎたまねをするとこうなるんだよ。ヒーローにでもなったつもりか?普通に投薬すればいいんだよ。リスパダール、ジプレキサ、セロクエル。何でもあるじゃないか。それだけでいいんだよ。頭を使うな。ガイドラインどうりでいい。副作用なんて知らないよ。そんなのはぼくの責任じゃない。もっと大事なことは、組織内での立場だ。もっと保身を考えろ。今回のことを教訓に、二度と馬鹿なことをするんじゃない。」もう一人の自分が語りかけていました。
後日談
この話にはつづきがあります。
この患者さんは、ナイアシンを取り上げられてしまいました。しかし、ナイアシンを摂取しての数日間でその効果を実感していました。退院後、自分でナイアシンを購入して摂取を開始しました。その後、病気は再発していません。
プライドがズタズタに引き裂かれても、一人の患者さんの人生を救えただけで、中村先生は、また立ち上がって前に進みつづけることができたのです。