オーソモレキュラー栄養療法Labでいくつもの記事をあげている『ビタミンD』
ビタミンDが最も研究されている機能としては骨代謝とカルシウム恒常性についてです。
成長期の大事な時期にしっかり日光を浴びることで、ビタミンDの生合成が促進され骨が強くなっているのです。
(「あなどれないビタミンDのスーパー効果」オーソモレキュラー栄養療法Lab)https://www.orthomolecularlab.jp/413/
日光浴が骨を強くするなどビタミンD生成と骨の関係性は重要ですが、骨のみでなくビタミンDは『筋肉』においても重要な役割を担います。
ビタミンDと筋肉の役割
筋肉組織に関してビタミンDは、筋肉の免疫調節、筋肉の炎症反応、タンパク質合成、細胞増殖、および骨格筋機能の調節において積極的な役割を果たしています。
上の図は骨格筋に対するビタミンDの作用を記した図になります。
Beaudart等の骨格筋強度、筋肉量、および筋力に対するビタミンDの効果の論文も含めて解釈すると、ビタミンDの循環レベルが低い状態は筋肉機能の障害、筋力の低下、および筋肉代謝障害に関連している報告があり骨格筋の恒常性(ホメオスタシス)の維持や骨格筋の緊張と収縮の調節に重要な役割を果たしています。
ビタミンDと筋肉の病気
Myopathy(ミオパチー)と呼ばれる筋肉の疾患を総称した病気があります。
症状としては多種多様で筋力低下、筋肉痛、目が動きにくい、疲れやすいなど筋肉に対しての影響が強い症状を呈しますがこの病気自体の原因は明らかになってはいません。
先天性、ミトコンドリア、筋原線維性、近位型、遠位型など様々な分類がされますが、その中で代謝性ミオパチーと分類される何らかの代謝異常障害によって起こるものがあります。
代謝性異常によるミオパシー(筋肉の疾患の総称)の原因の1つとしてビタミンDの欠乏が明らかになっている。
「重篤なビタミンD欠乏症や慢性腎不全患者では、骨格筋にミオパチーがおこり、筋力低下、筋萎縮、動揺性歩行、転倒リスクの上昇がきたすことが知られている」
(ビタミンDと骨格筋:The Vitamin society of Japan 2010.8)
日本の論文でもビタミンDがミオパチーとの関係性は多く報告されていて、骨格筋の姿勢調整に必須であるとも記されている。
特にビタミンD欠乏が著名な患者の筋組織像では、速筋であるⅡ型筋線維が優位に萎縮、筋線維間の拡大、脂肪侵潤、繊維化などが認められる。
速筋であるⅡ型筋線維は粗大筋力との関係性が大きく、高齢者の転倒が多い原因の1つとしてビタミンD欠乏が粗大筋力の機能低下を引き起こし転倒に繋がると考えられている。
Sorensonらは高齢女性に対して1α-hyiroxyvitamin Dとカルシウムを3−6ヶ月間投与した後、筋生検で組織を観察したところ。Ⅱa型筋線維が有意に増加していたと報告している。
(Myopathy in bone loss of aging ; inprovement by treatment with 1 alpha−hydroxycholecalciferol and calcium 1979)
Sato Yらは48人の高齢脳卒中患者に対して1000[U1日のビタミンD、投与を行 ったrandarnized controlled studyにおいても、2年間に渡ってⅡ型筋線維の径とその存在比率に有意な改善が認められ、さらに血清25(OH )DレベルとⅡ型筋線維の径に有意な相関が認められている。
(Low−dose Vitamin D prevents muscular atrophy and reduced falls and hip fracture in wom−en after stroke 2005)
ビタミンDとスポーツ選手の筋肉とトレーニング
ビタミンDレベルが低いサッカー選手はビタミンDが高いレベルの選手と比較して、ハムストリングスと大腿四頭筋のトルクが大幅に減少するという報告があります。
これはビタミンDレベルが筋力、神経筋のパフォーマンスとの関連性を示しているとも言えます。
一方でビタミンDとトレーニングにおける筋肉量に関しての報告では、レジスタンストレーニングと若い男性へのビタミンD補給では筋力や筋肥大への増加をなかったが、レジスタンストレーニングを行っている高齢者にビタミンD補給を行った場合は、若いヒトに比べて筋力や筋断面積の改善が見られたとのことでした。
- ビタミンDが欠乏している場合
- 高強度のエクササイズ
- 大きな筋肉(速筋、Ⅱ型筋線維など)
上記の3つの関与がある場合にビタミンDは効果的になる可能性があるのではないかと思われます。
ビタミンDと運動後の筋肉損傷後の回復
先ほどはビタミンDと筋肉とトレーニングの関係性についてお伝えしましたが、ビタミンDには運動パフォーマンスへの影響にも大きく関係すると報告される研究が多くあります。
その大きな理由の1つはビタミンDが骨格筋の損傷後の炎症調節に重要な役割があるからです。
激しい運動やスポーツにおいて骨格筋の微細な損傷により、その修復過程の中で好中球、リンパ球、単球などが増加する炎症誘発により体温の上昇や毛細血管拡張により組織回復がおこなわれていきます。
ビタミンDの欠乏レベルが高い方は、組織回復における炎症誘発後の調整が問題になることで結果的に回復が不十分になりパフォーマンスの低下や怪我率の高さに繋がる可能性があるとされています。
ビタミンDの摂取量
日本における厚生労労働省ぼ日本人の食事摂取基準(2020年版)におけるビタミンD摂取基準量の「目安量」は8.5 µg /日(340IU)に設定されています。
日本の摂取基準の設定基準は…
日本内分泌学会・日本骨代謝学会により発表された「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」では、血中ビタミンD濃度30µg/ml以上を充足レベルとしているが、これでは食事からは充足不可能であること。そのため、目標を「ビタミンD欠乏を回避する20µg/ml」に設定し、目安量を成人8.5µg/日(340IU)に設定したとあります。
ビタミンDの研究が進んでいる欧米の専門家たちは、欠乏症リスクの軽減を目的とした場合は、1日50〜100µg(2000〜4000IU)の摂取が望ましいだろうと考えています。
安全容量は1万IUまでだが、多発性硬化症のようなある種の病気ではもっと高容量が必要である。くる病の治療では一般に一日1600IU必要だが、治療抵抗性の症例では一日5万から30万IUも必要であるように、DRIレベルの用量では決して治療のための用量とは言えない。
(オーソモレキュラー医学入門 エイブラム・ホッファー、アンドリュー・W・ソウル著)
今一度ご自身の体や筋肉の状態、日頃の運動頻度や量を考慮してビタミンDの量と向き合ってみることも大切なのではないかと思います。